大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(う)2452号 判決

被告人 小川晁

〔抄 録〕

原判決が事実認定の証拠として挙示した被告人に対する検察官の供述調書は、その形式、内容を調査し関係証拠と比較検討して見ると、所論の如く取調官の誘導により酩酊より覚めた後の想像による供述を録取したものではなく、被告人が自己の実験した事実を記憶に基き自由且つ任意に供述しこれを録取したもので、任意性及び信用性があると認められるから、原判決がこれを事実認定の資料としたのは何等違法ではない。論旨は被告人は原判示カメラ二台を如何に処分せんとするかにつき詳細に述ぶるところなく、却つて自ら使用又は売却の意図は全然なかつたと供述しているのであるから領得の意思がないと主張するが、原判決挙示の被告人に対する検察官の供述調書によると、被告人は原判示カメラ二台を所有者に気付かれないように予め原判示鍋茶屋の裏廊下の壁の脇の横にかくして置き、同所を立去るに当り人に見付からなかつたら家まで持つて帰ろうと思いこれを取つてきて自己の鞄の中に仕舞い込みこれを持つて帰途につき、途中新潟駅において岡谷保健所長より写真機を間違つて持つて来なかつたかと尋ねられても、間違えては来ないと答え、そのまま右鞄を携えて列車に乗つたというのであるから、他人のカメラを自己の鞄の中に入れて持ち出す際にこれを売ろうとか自分の家で使つて見ようという判然した考がなくても、人に見付からなければ家まで持つて帰ろうと思つて他人のカメラを自己の鞄の中に入れて持帰ることは、これ即ち他人の物を自己の所有物としようという意思であつて、特段の事情のない限り領得の意思があると認めるべきで、換言すれば他人の物を勝手に自宅に持帰るということ自体が、権利者を排除して所有者でなければできない行為をしているのであつて、犯人において持帰る時に将来の処分方法乃至利用方法が決定していることは必要ではないのである。次に論旨は被告人は本件犯行当時心神喪失の状態にあつたのに拘らず、心神耗弱の状態にあつたと認定した原判決は事実の認定を誤つた違法があると主張する。しかし被告人に対する検察官の供述調書及び原審鑑定人斎藤西洋作成の鑑定書を綜合すると、被告人が本件犯行当時飲酒酩酊していたことは窺われるが、これがため是非を弁別し又はこれによつて行動することの不能な状態にあつたとは認められず、精神病質人格者である被告人が病的酩酊に近い程度の状態において是非を弁別し又はこれに従つて行動することの困難な状態にあつたものと認めるのが相当であり、従つて被告人の本件犯行当時の精神状態は心神耗弱の状態にあつたものと認めるべきである。要するに原判決挙示の証拠を綜合すると原判示事実は優にこれを認めることができ記録を精査するも原判決に所論のような事実誤認の過誤は存しない。論旨は理由がない。

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